株式会社東レ経営研究所 代表取締役 佐々木常夫氏

 
約2割の重要な仕事にピンポイントで力を注ぐために、どのような発想をすれば良いかを中心に講義いただきました。
言われてみると確かに…どうでもよい方の仕事に手間ひまをかけ、自己満足していることに改めて気づかされます。

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まずは、目の前の仕事を一生懸命やってみよう

人生を切り拓くために「一日を有意義に過ごす」には、大きく分けて二つの発想法があるように思います。
一つ目はゴールを先に設定し、そこへ最短で辿りつくために、一日一日をどのように積み上げていくか、という考え方です。
個人的には、この考え方は経営者向きだと感じています。私は数年前、「プロフェッショナルマネージャー(プレジデント社)」という本を読んでとても感銘を受けましたが、その冒頭に「本を読む時は、はじめから終わりへと読む。ビジネスの経営はそれとは逆だ。終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ」と書いてあります。著者のハロルド・ジェニーンはITTという会社のCEOとして14年半連続増益という金字塔を打ち立てた人物ですから、これは正しい考え方なのでしょう。

ただし、繰り返しになりますが、この考え方は経営者にとっての理想形であり、多くのビジネスマンにはもう一方の発想法があてはまる気がしています。

それは、目の前の仕事を一生懸命やっていれば、道が拓けるという考え方です。
自分自身の体験で言えば、これはリアリティがあります。私は数年前、東レ経営研究所の社長はすでにしていましたが、メディアに出たことのない世間的には全く無名の人間でした。それが雑誌「AERA」のカエリーマン特集で、3人の取材対象者のうちの一人として取り上げられたことで環境が一変しました。
 
プロフェッショナルマネジャー
[著]
ハロルド・シドニー・ジェニーン
[訳] 田中融二
[解説] 柳井 正
[出版社]プレジデント社
後日、その記事を読んだ大手企業の人事部の方より「弊社の部長以上の役職者に講演をしてくれないか」と連絡がありました。私はそれまで講演をした経験はなく、ただ一生懸命になって原稿を書き、無我夢中で話した記憶があります。

そして、その講演を録音したテープをたまたま聞いた出版社の社長から「本を書いてみませんか」とお誘いがありました。本はさすがに…と迷って家族に相談したところ「ぜひ書いてみなさいよ」と背中を押され、慣れない原稿をなんとか書き上げ一冊の本にまとめました。この出版をきっかけに朝日新聞の「人」という欄で紹介されたところ、複数のTV局から取材依頼があり、自分で言うのもおこがましいのですが、今ではメディアの取材や講演の依頼が絶えない状態です。

私がここで言いたいことは、自分が最初にしたことはたった一回の講演だったということです。それがきっかけとなり、最終的には今の状態に辿りつきました。何かの大きな目標を掲げていたのではなく、ただ目の前のことを一生懸命やり続けてきた結果なのです。だからといって、私は短絡的に「小さなことやつまらないことを毎日一生懸命やっていれば必ず道が拓ける」とは言い切れません。それが大きな結果につながらないケースもたくさんあるはずです。

しかしこれだけは、はっきりしています。目の前の仕事に日々一生懸命取り組まなければ、運命が拓くことなど絶対にないのです。
  代表取締役 佐々木常夫
 
 

仕事にとりかかる前に必ず完成度何%かを決める

完成度何%かを決める   ここまで、目の前の仕事を毎日一生懸命やろう、とお話ししてきましたが、残業を気にせず、ただがむしゃらにやることをお薦めしているわけではありません。一生懸命するにも効率的なやり方というのがあります。

それは、仕事の手を抜くということです。ここだけ読むと、今までの話とちょっと矛盾するようですが、決してそうではありません。私は仕事にとりかかる前に必ず「この仕事は1時間で終わらせよう」「これは30分程度かければいいな」と決めます。そして、予め決めた時間が来ると、ほとんどの仕事が予定通りに終わります。

しかし多くの方が1時間で終わらせよう、と決めたとしても、実際には2時間、3時間…と予定時間をオーバーしてしまいます。この差はいったい何でしょうか。種明かしをすればカンタンなことです。それは、時間に合わせて仕事の完成度を落とせば良いのです。
 
 
少し乱暴に聞こえるかもしれませんが、会社の仕事でそんなに重要なことってそうそうないんです。会社の仕事とは大半が雑用みたいなものです。割合で言うと、重要な仕事は全体のうち2割あるかないか、残りの8割は手を抜いても問題にならないような、どうでもよい仕事です。

人間とは本当に不思議なもので、重要な仕事もどうでもよい仕事も両方、80%の完成度に仕上げようとします。この部分をさらに突っ込んで言えば、どうでもよい仕事はカンタンな内容が多く、完成度を高めることが容易にできます。それだけに、誰にも求められていない部分にまでこだわってつい完成度を高くしてしまいがちです。
  完成度何%かを決める
その一方で、重要な仕事は複雑な内容が多く、完成度を高めることが困難なのです。

8割のどうでもよい仕事に時間をかけてしまう人は、それだけで大半の時間を消費してしまい、重要な仕事を詰め切れないリスクを追わなくてはなりません。大事なことは、仕事にとりかかる前に完成度を何%にするかを決めることです。これは完成度30%…これは完成度50%…といった風に完成度を落とせば時間が生まれ、重要な仕事により多くの時間をかけることができます。重要な仕事の完成度が高いということは、あなたの評価が高まるということです。どうでもよい仕事の完成度で能力を評価する会社などないのです。
 
 

タイムプランニングの要は情報処理を予め組み込むこと

代表取締役 佐々木常夫   もう一つ、要となるのがタイムプランニングです。

私はプランニング魔で、数年先…一年間…一ケ月…一週間…のうちに「どの仕事をいつまでにどのように」進めるかを決めています。このスクールは一日がテーマなのであまり触れませんが、プランニングを行うことで、仕事のプライオリティも明確になりますし予測能力も向上します。

一日のプランニングも、もちろん行っています。通勤中にプランニングをすることが多いので、会社に到着した時点で、何と何を行えば今日の仕事は終了かが明確になっています。何十年もプランニングをしてきたので、だいたい予測通りの時間には終わります。たまに予定よりも随分早く夕方くらいの段階で仕事が完了することもあり、そんな時にはいつもより大きな充実感が味わえます。

一日のプランニングのポイントになるのは、情報処理にかかる時間をどう読むかということです。

仕事には業務処理と情報処理の2種類があります。「業務処理は自分一人でする」仕事です。「情報処理は人とする」仕事です。例えば私の場合、今日は6人の部下が「社長、相談があります」といきなり飛び込んできました。このようなことを事前に予測し、今日は8時間仕事に使えるけど、部下とのやりとりに2時間はとられるな、といった風に一日の計画に情報処理の時間を組み込んでおくことが重要です。
 
 

一日を有意義に過ごすには「集中力の発揮」が条件

仕事をする上で「一日を有意義に過ごす」ために、絶対に欠かせない要素、それは集中力です。

私は「集中力=体調管理」と考えています。皆さんにも心当たりがあると思いますが、集中力が上手く発揮できない時は、体調管理が疎かになり疲労がたまっていることが多いものです。

体調管理を具体的にどう行っていくかは、人それぞれスタイルが違いますが、私の場合は睡眠時間の管理がポイントになります。
  「集中力の発揮」が条件
私はいまだに子どものようなところがあり、一日7時間は寝ないと気分も体調も優れません。だから睡眠時間が重要なのです。この睡眠時間の確保にさえ気を配っていれば、日中は集中力が持続し、そのおかげで残業をせずに毎日帰ることが出来ます。でも、これはあくまでも私のやり方です。あなたの体調管理にとって影響が大きいのは、睡眠なのか?食事なのか?それともストレス解消なのか?を自分自身で把握し、安定した集中力を発揮できるよう自己管理をしてください。

逆に、集中力が低い人は残業が習慣化してしまうケースが多いようです。

昼間は冴えない表情をしていて、昼休みになると時間ギリギリまでおしゃべりに夢中。1時になる重い腰をやっとあげて「さぁ、やるか」ってなもんです。私から言わせると、そういう人は昼間は手を抜いているとしか思えません。これでは残業が日常化してしまうのもムリありませんね。

では、集中力さえ高ければ、残業をせずに定時に帰れるのか、と言うと、世の中そんな甘いもんじゃありません。私は今、東レ経営研究所の社長をしています。それだけでも仕事はたくさんあります。その他に、経団連の理事や内閣府の複数の審議会の委員も担当しているので、事前の準備や会合でかなりの時間を要します。さらに本の執筆や講演会でも多くの時間を割かれます(これは個人の時間を利用していますが、まぁ仕事のようなものですね)。メディアの取材対応は月に10本ペースです。

一般のビジネスマンより明らかに多くの仕事量を抱えているわけです。スケジュールは隙間なく埋まっていて、“時間単位”でなく“分”単位で仕事が入ってくることも少なくありません。ここまで仕事量が膨大だと、いくら「私は残業をせずに帰っている」と言ってもオフタイムを利用して仕事をこなしていそうですが、そんなことはありません。家に帰れば、好きな本や時には面白いドラマを見たり…毎日何時間もかけて家族との会話を楽しみながら晩酌をしています。たくさんの仕事を時間内にこなしつつも、こんなに余裕があるのは日々の集中力の発揮に加えて、様々な工夫をしているからなのです。
 
 

やらないで済むことはやらないこと、を徹底する

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その一つ目は「すき間時間」を最大限に活用することです。
私は、通勤中や移動中の電車でいねむりをしたことがありません。電車内では必ず仕事をしています。カバンの中には、案件別に整理した数種類のクリアファイルを入れています。座席につくとその中の一つを取り出し、周囲など気にせず仕事に集中します。移動時間が片道数十分ある場合は、行きで一つ、帰りで一つ仕事が終わっている計算です。出張中も全く同じです。こまめな乗り換えがない新幹線は、私にとって最高のオフィス空間です。
二つ目は、やらないで済むことは、やらないことを徹底することです。

私は「会議に出ない・人に会わない・書類を読まない」主義を貫いています。まぁ、これはやり方を間違えるとビジネスマンとしては、命とりになりかねませんから、安易に真似することはお薦めしませんが(笑)。

会議に出ない…私の経験で言えば出ても意味のない会議が全体のうち3割くらいあります。こういう無意味な会議には口実をつくって出席しないか、代理人を出します。意味のない会議にどうしても出席しなければならない場合、メモをとっているふりをして違う仕事をしています。
  代表取締役 佐々木常夫
人に会わない…何でもかんでも打ち合わせをすれば良いというものではありません。「打ち合わせをしたい」「会って話がしたい」という依頼があっても本当にその人に会わないといけないのか、それは電話やメールでやりとりすれば済む用件ではないかと事前に検証します。その上で直接会うのを断るケースもよくあります。

書類は読まない…会社の資料なんて読まなくてもいいものがたくさんあります。そんなものに目を通しているうちに、貴重な時間はどんどん奪われていきます。もちろん、読まなくてはいけない資料はじっくり目を通す必要がありますが。そこらへんはきちんと吟味しなくてはなりませんね。

三つ目の工夫は、メールのやりとりです。メールは読むだけで時間がかかります。それに対しバカ丁寧に返事を書いていたら、いくら時間があっても足りません。私の場合は極端にメール文を簡略化し、こんにちわ、お元気ですか、などという冒頭の挨拶は一切省きます。内容は用件だけです。結論、それに補足の箇条書きくらいです。そういうメールを出していると、受け取る側も「佐々木さんはこういうタイプなんだな」と徐々に理解してくれて送られてくるメールもどんどん短くなっていき、さらにやりとりが効率的になります。私のスタイルに相手が合わせて変わってくるというわけです。まぁ中には、用件だけの短いメールでは不機嫌になる人もいますから、そういう人には丁寧な対応をしなくてはなりませんね。
 
 

仕事を趣味としてやっている人には誰もかなわない

私がここまでして時間を効率的に利用することを、なぜそこまで?と不思議に思う方もいるかもしれません。

根本のところで言うと、それは結局、自分がやりたいからやっているんです。昼食をさっと済まして、すぐに仕事にとりかかると「佐々木さん、昼休みくらいちゃんと休みましょうよ」と言われることもあるのですが、私は仕事をすることが何よりも楽しいんです。もう趣味みたいなもんです。仕事を仕事としてやっている人は、最終的には仕事が趣味な人にはかないません。仕事が趣味であれば、どこまでも集中してできるし、気分転換さえ必要ないんです。

では、なぜここまで仕事がなぜ楽しいのか。

それは仕事は形として残るからです。これは「俺が作った工場だ」「私が作ったシステムだ」など、たいていの仕事は形として残ります。

その仕事の楽しさは、課長…部長…と役職が上がれば上がるほど大きくなっていきました。私が平社員の時は「あの仕事は充実感あったなぁ」とプロジェクトが完結する度に思っていました。それが課長や部長になると、部下を使ってもっと多くの仕事を形にすることで、充実感が何倍にも大きくなりました。今は社長をしているわけですが「社長は苦労ばかりで大変だ」なんて、決まり文句のようにみんな口では言いますけど、あれは嘘ですよ。立場が上に行く方が楽しみが大きくなる、もちろん全てとは言えませんが、ほとんどの会社でこれはあてはまることだと思います。